広島高等裁判所 昭和29年(う)146号 判決
記録を検討してみると、被告人陳国棟は昭和二十七年九月上旬頃周みち子に対し二、三日後に返済を受ける約旨で三十万円を貸与したが、同女が所定の期日に返済しないので督促したところ「手持の麻薬を売却したら返すから若し急ぐなら麻薬売買の世話をしてくれ」と依頼されたので、貸金を回収するため同女に協力しようと考え予て麻薬を取扱うと聞及んでいた原審相被告人林糾豪に相談を持ちかけ同人と共謀の上同人をして原判示第一(イ)記載の如く李某に対し周みち子の塩酸ジアセチルモルヒネ五十瓦を代金七万円で譲渡し、更に原判示第一、(ロ)記載の如く六回に右林糾豪外一名に前同様のモルヒネ百二瓦を代金合計十六万四千円で譲渡し、その代金は譲渡の都度全額周みち子に手交し、その後に至り貸金三十万と利息三万円の弁済を受けたものであることが認められる。以上の動機、経過に徴すると被告人陳国棟は前記麻薬の売買により間接に利益を享受していることは争えないところであるが、それは結局自己が当然取得すべき貸金とその利息を回収したに止り、売買そのものによつては何等の利益を得ていないのみでなく当初よりその意図はなかつたものと認むべきであるから之が営利の目的に出でたものということはできない。更に前記七回の麻薬譲渡の事実のみで同被告人が麻薬売買等の常習者であるとは断定できない。